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新型コロナウイルスは日常診療の姿を変えるか

Monthlyミクス編集部

特報チームデスク 望月 英梨

 「この機に、オンライン診療をはじめ、社会のあらゆる分野で遠隔対応を一気に進めることで、未来を先取りするような新たな日常をつくりあげていきたい」―。安倍晋三首相は5月19日に開かれた国家戦略特別区域諮問会議でこう述べた。新型コロナウイルスの感染拡大が浮き彫りにしたのは、オンライン診療など医療・教育分野をはじめとしたオンライン活用が世界的に見て先進国とは言い難い実態だ。安倍首相は、新型コロナウイルスの感染拡大収束後の活用も検討するよう指示した。ニーズや課題を洗い出し、医療現場に定着すべき措置について年内を目途に検討する。安倍首相は、「この機に、オンライン診療をはじめ、社会のあらゆる分野で遠隔対応を一気に進めることで、未来を先取りするような新たな日常をつくりあげていきたい」と述べ、改革を加速させる考えを示した。
 新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐために、人との接触を「最低7割、極力8割」削減することが求められるなかで、政府はオンライン診療・服薬指導の段階的な緩和を進めてきた。“初診対面”原則が堅持されるなかで、4月13日、「時限的・特例的」な措置として初診を含むオンライン診療を含め、全面的な解禁に踏み切った。
 実は、この間の医療機関には行動変容が見られる。厚労省の公表によると、オンライン診療を実施する医療機関は全国で 1万4500施設超まで増加している。オンライン診療を実施する東京の病院のうち、約5割に当たる約900医療機関が初診から応じているという(5月25日時点)。
 患者の受診抑制も医療機関側のオンライン診療と動く流れを加速させた。緊急事態宣言発出後の4月以降、受診抑制は顕著になった。新型コロナウイルス陽性患者を受け入れる医療機関を中心として病院経営への打撃が注目されたが、診療所の影響も大きい。福岡県医師会の調査によると、耳鼻科や小児科を中心に受診抑制が顕著になった4月には、診療所の総点数として最大3割減少したとの報告もある。
 日本医師会が医療機関614施設(病院125移設、診療所468施設)を調べたところ、3月時点で初診料の算定回数が病院で前年同期比20.3%減、診療所で29.0%減となっていた。一方で、電話等再診は3925回と2703.6%増、診療所で280.4%増と大きな伸びを示している。あくまで“電話等再診”であり、オンライン診療とは異なるものだ。しかし、新型コロナウイルスへの感染を回避する目的で、患者が一時的に受診を控える動きが顕在化したことから、医師など医療従事者や医療機関側の意識に変化を生じたことがうかがえる。


◎「かかりつけ医等と連携し、ICTを適切に活用」 コロナ経験で意識に変化も


 今秋以降の第2波に備え、医療従事者側に感染拡大の防止に向けた取り組みへの意識はより高まっている。一方で政府は社会経済活動と感染拡大防止の両立を視野に、「新たな生活様式の確立」が求めている。
 これまで対面診療の重要性を訴えてきた日本医師会だが、5月27日に公表した「新しい生活様式」を支える「本人に適した生活習慣」の実践に向けた提言では、「外出自粛要請下等であっても、継続的な健康支援が可能となるよう、かかりつけ医等との連携によりICTを適切に活用し、健康状態を自ら把握、管理し、適宜、健康相談・指導等を受ける」ことを4本柱の一つに盛り込んだ。
 注目したいのが、「平時に国民が“かかりつけ医”を持つこと」と主張した点だ。かかりつけ医がいることで、自身の健康状態や生活、運動、さらには家族状況などを把握する。ある医師は取材で、患者の名前を聞くと顔や家族構成などが思い浮かぶという。こうした医師であれば、オンライン診療を活用することで急変時を察知し、適切な対応も可能になるだろう。オンライン診療というツールが生きるためには、かかりつけ医が定着することが必須と言えるのではないか。
 一方で、初診のオンライン診療活用は課題が残る。患者の状態を適切に把握することが難しいことに加え、重症例で他院への紹介が必要な場合などもオンライン診療だけでは難しいと指摘する声もある。
 前述の会議で、安倍首相は、「新たな日常をつくり上げていくためには、ITの積極的活用が欠かせない。危機に際しては、平時の発想に捉われることなく、ピンチをチャンスに変える思い切った改革が必要だ」とも述べた。医療現場の行動は急速に変化している。製薬業界も、いつまでも“対面”が原則だと信じ込んでいては、こうした変化に対応することすら難しいときが近づいている。

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