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全世代型社会保障が目指す社会像 治療後のケアがカギを握る

Monthlyミクス編集部

特報チームデスク 望月 英梨

 政府は昨年末、全世代型社会保障検討会議の中間報告を取りまとめた。医療に関しては、後期高齢者の窓口負担引上げや受診時定額負担が注目を集めた。しかし、議論の根幹は、多様な働き方やライフスタイルに応じて安心できる社会保障制度を構築することだ。年齢によらない、多様な働き方を実現することで、労働生産人口の減少も補うことができる。これまで、“横並び、画一的”という表現がぴったり合致した日本の社会システム構築そのものを見直すことを意味する。「少子高齢化が急速に進む中で、これまでの社会保障システムの改善にとどまることなく、システム自体の改革を進めていくことが不可欠」―。全世代型社会保障検討会議の中間報告にもこう明記されている。
 多様な生き方を支えるのが、健康寿命の延伸だ。そして、労働生産性人口が減少するなかで、病気を抱える人であっても、安心して働けるような多様性を認める社会システムの醸成が必要になる。
 中高年の働き盛りの世代で高血圧や糖尿病など、生活習慣病が増加するなかで、日本の労働生産人口の約3人に1人が何かしらの疾病を抱えながら働いているとの報告もある。


◎「治療と仕事の両立」を実現できる社会に


 20年度診療報酬改定でもこうした社会システムの変革を後押しする。目指すのは、「治療と仕事の両立」が“普通”にできる社会にほかならない。
 18年度改定で新設した「療養・就労両立支援指導料」の対象を拡大する。企業から提供された勤務情報に基づき、患者に療養上必要な指導を実施するとともに、企業に対して診療情報を提供した場合について評価する。また、診療方法を提供した後の勤務環境の変化を踏まえ療養上必要な指導を行った場合も評価する。疾患範囲もがんに、脳卒中、肝疾患、指定難病へと拡大する。
 疾患ベースでも、病気を克服した人の社会復帰を後押しする施策が進められている。例えば、今回療養・就労両立支援指導料で範囲が拡充された、循環器領域でも、社会復帰を視野に入れた施策の立案が進められている。
 循環器と聞けば、これまでは急性冠症候群(ACS)や脳梗塞の急性期でのt-PA療法など、“時間との闘い”のイメージが強かった。急性期に命を救うことが最優先され、地域でも急性期を中心とした医療提供体制が構築されてきた。
 一方で、異なる課題もある。「急性発症する循環器病は再発、悪化を繰り返し、患者の生活にも多大な影響を与える。こうしたなか健康寿命の延伸などを図る、脳卒中心臓病その他の循環器病に係る対策に関する基本法を制定した」―。加藤勝信厚労相は2019年12月に施行された循環器病対策基本法の主旨をこう説明した。脳卒中や心筋梗塞による寝たきりを防ぎ、健康寿命の延伸を実現するためにも、早期に適切な治療を行い、社会復帰につなげることが求められているのだ。
 実際、私も取材を通じ、一度退院した患者が再入院する負のスパイラルに陥るケースが少なくないとの臨床医の声をよく耳にする。退院後は減塩などの生活習慣を維持させることも難しいとの話も聞く。社会復帰を見据えれば、退院後のリハビリや、高次機能障害への対策など、医療だけでは充足できないサービスを提供することも必要になる。従来の医療機関や薬局同士の連携だけでは患者を社会復帰させるのが難しいとも言える。


◎「予防、医療、福祉サービスまで幅広い循環器病対策を総合的に推進」の込めた意味


 厚労省は、循環器病対策基本法の施行を踏まえ、今夏にも第1期循環器病対策推進基本計画の策定を目指す。会議の場には、脳卒中や心筋梗塞などのキーオピニオンリーダーだけではない。リハビリ専門医や社会福祉士(SW)、ケアマネジャー、歯科医師、薬剤師、救急救命士、栄養士、患者―と多岐にわたる。まさに、地域包括ケアシステムのキープレーヤーにほかならない。
 「予防、医療、福祉サービスまで幅広い循環器病対策を総合的に推進する」―。加藤厚労相はこうも話している。策定された循環器病対策基本計画は、21年4月にも予定される各自治体の策定する第7次医療計画(都道府県策定)の中間見直し、第8期介護保険事業計画(市町村策定)に反映され、地域医療の現場に落とし込まれる。地域医療の場でも、従来の多職種の枠を超えたディスカッションが必要になるだろう。
 これまで患者の治療に置かれてきた軸足も変化しつつある。患者の社会復帰は医療職だけの理解ではなく、介護や福祉、そして地域住民と数多くのプレーヤーに支えられる。製薬企業にもぜひ、“社会復帰”をテーマに、地域包括ケアシステムのなかで一翼を果たしてほしい。